①の続き
では、最初にもどりますが、「カーシャ」はどうなの?ということになります。トルストイについては、「さんびきのくま」を何度か書いており、その際に「スープ」と「カーシャ」(もっとあるかもしれないが)の書き分けがあったということなるのでは、と推理したいと思います。
ロジャンコフスキー版 |
実際、さきほどのパンフレットを読むと、トルストイは、ロシアの子どもたちのためにいろいろなお話を10回以上改作を重ねて作ったと書いてあります。このお話も改作を重ねるその途中で、「スープ」がやはりドロドロした穀物系PORRIDGEとイメージが重なる「カーシャ」になり、(または「カーシャ」が「スープ」になり)…と考えられるのではと思うのです。カーシャだけに目がくらんでおろそかになっていましたが、雑誌TRNZITのその他の文章もヴァスネツオフ版とは随分異なります。どちらが先に書かれた話なのか、そもそも、「スープ」「カーシャ」のそれぞれの選択理由も気になります。
よく知られたシンプルなお話ですが、伝承物語ならではのお話の内容の変化があり、たったひとつ登場する食べ物も、国境を越えた時に多分わかりやすさや親しみやすさを考慮して自国にある料理名に変わり、作者の書き直しによっても変わり、ということなのではと思います。
で、現在ロシア人はどう思っているかなんですが、ほぼカーシャが優勢ではないかと思っています。私のロシア語の教材のお話でもカーシャです。実はロシアに行った際、何人かの人に聞いてみたのです。確か一人を除いてカーシャという答えが返ってきました。印象的だったのははっきりとスープと答えた小学生の女の子でした。
これはスープ |
この女の子は双子なんですが、もう一人の女の子はカーシャと答えているのです。同じように育って多分同じ本を読んでいるはずなのに。お母さんも驚いて首をかしげていましたが、その女の子は絶対スープと言い張りました。彼女がどこかでスープ版「さんびきのくま」を一人で読んだのでしょうか。ちょっと面白い話だなと思っています。
PORRIDGEとカーシャについては、まあ穀類を煮るということから(スープよりも)同じようなものと言えるのかもしれません。というのも、ロシアから亡命した画家ロジャンコフスキーがアメリカで描いた「さんびきのくま」が最近ロシアで復刻出版されたので取り寄せて見てみたら、こちらは「カーシャ」表記でした。特に作者は記されていないものの、アメリカ版を露訳した絵本です。とするとカーシャの原語は何だったのでしょう。PORRIDGEという言葉が使われていたと素人なりに考えると、ロシア語版で堂々КАШАカーシャとなっているのは、ほほ同じ食べ物としての判断があったからだと推測されるからです。
カーシャを作ってみた |
どうでもよいような、でも、同じ話でも同じ作家でも食べ物の表記が異なったり、国を越える時に異なってくる…このことから読者も人によってお話の食べ物のイメージがそれぞれ違うっていうのはちょっと面白いなと思ったわけです。というのも、原語をたどれば、概ねそんなにイメージの相違はないように思ったりもしますが、特に日本語にした時の「スープ」や「おかゆ」という表記はそれはそれで結構イメージがぐっと広がるというか、ゆえにもとの食べ物のイメージから離れてしまっているとも考えられますし。
先日行ったあるお人形の展示会ではこの食べ物は「ボルシチ」!!設定でした。もう、何でもありかもしれません。統一イメージとしては、どろっとした温かい食べ物だったということでしょうか。迷子の子がちょっと食べてみたくなるような。きっとそれは、優しくてほっとする味だったに違いないでしょう。熊のお母さんが家族のために心をこめて作ったのですから。
先日行ったあるお人形の展示会ではこの食べ物は「ボルシチ」!!設定でした。もう、何でもありかもしれません。統一イメージとしては、どろっとした温かい食べ物だったということでしょうか。迷子の子がちょっと食べてみたくなるような。きっとそれは、優しくてほっとする味だったに違いないでしょう。熊のお母さんが家族のために心をこめて作ったのですから。
※前回「ロジャンコフスキーさん」で書いていたことの答えを記します。
「さんびきのくま」に白樺の木はやはり登場していました!
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参考・参照文献
「TRNSIT」27号(講談社)
「さんびきのくま」(福音館書店)
「ТРИ МЕДВЕДЯ」9785903979776
「GOLDILOCKS AND THE THREE BEARS」0399221212
「GOLDILOCKS AND THE THREE BEARS」0200728563
「三鷹の森ジブリ美術館企画展示 さんびきのくま」
「こどもとしょかん」139号
「絵本世界の食事18 ロシアのごはん」(農文協)
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