2014年9月23日火曜日

チェブラーシカ事件簿

『チェブラーシカ』(東洋書店)
  ロシア絵本のネットショップを運営しているので、サイトへのアクセス数はもちろん気になるところですが、少し前、2013年3月のある月曜日の真夜中、ちょっとした「事件?」が起こりました。突然そのアクセス数がびっくりするほどの勢いで急上昇したのです。何かシステム的なトラブルか、とさえ思えるほどの数値でちょっとこわいくらいでした。

 ほどなくその「犯人」がテレビドラマ「ビブリア古書堂の事件簿」であることがわかりました。そのドラマで、当ショップでも当時取り扱いのあった『チェブラーシュカと仲間たち』(新読書社)(現在は品切れ中)が取り上げられたため、多くの視聴者が、夜中にネットで本探しをした、ということなのでした。

 
 最近はテレビ離れが進んでいると思っていたのですが、いやいやどうして、すごい影響力です。でも、一体どうして、その本がそんなにも注目を集めたのでしょう。そう、皆さんがどうしても見たかったのはこの本のチェブラーシカの挿絵だったのです。


 チェブラーシカといえば、どんな姿・形の生き物?そう問われたらどうでしょう。きっと大きな耳にくりくりの目が特徴の茶色い動物を思い浮かべるのではと思います。パペットアニメ映画やキャラクター商品でよくお目にかかるおなじみの「あの生き物」です。


 でも、皆さんが探していた、の挿絵のチェブラーシカは、おなじみのイメージとは全く異なった、一見、タヌキかクマ※のような素朴で不思議な風貌なんですね。一体どういうことなのでしょう。

タヌキ?※
 『チェブラーシカ』(東洋書店)という書籍によると、現在、日本でよく知られるチェブラーシカ像が定着するきっかけは、2001年吉田久美子さんという方の尽力により公開されたパペットアニメーション映画のようです。前述の『チェブラーシュカと仲間たち』が日本に紹介されたのは1976年、(実際に画家アルフェーフスキーが描いたのは1965年)ですから、映画よりも早く日本にやってきたのはこちらのチェブラーシカだということになります。


 でも、映画発表以降、日本ではチェブラーシカはその映画のキャラクターの姿形が広く知られ、大人気に。その人気がロシアに伝わり、本国で魅力が「再発見」され、オリンピックの公式マスコットになったり…という流れもあったりを経て、現在では、日本が、旧ソ連領土以外のチェブラーシカの包括的版権を取得し、様々な商品が生み出されているそうです。ここで作りだされるチェブラーシカ像が、すなわち(概ね)日本でのチェブラーシカ像となっているわけですね。

  本国ロシアではどうかというと、前述参考図書によると、ロシア人にとって、チェブラーシカとはまず、お話を通して、その性格や風貌を皆それぞれが、心の中で想像し、イメージする存在であるということが根底にあるそう。例として「罪と罰」のラスコーリニコフがあげられていましたが、日本だったら、「三四郎」?そう、よく知られたお話の登場人物や動物など考えてみてもいいかもしれません。それらは、時代を越えて、様々な表現で描かれたり、演じたりされるけれども、それぞれの心の中のイメージは自由であり、イメージがひとつに固定されることはない、ロシア人にとってチェブラーシカって、そういう存在だということらしいのです。

 ですから、ロシアでも、その人気や認知度の高さから、映画イメージに近いチェブラーシカの書籍や商品がほとんどのようですが、画家やデザイナーの個性も入っていたりして、日本ほどキャラクターデザインにガチガチな統一性がない、ということにもむすびついてくるようです。(実際問題として、社会主義時代に著作権という考え方がなかったから、画家の数だけチェブラーシカが生まれ、今だにそれが残っているということもあるようですが)

 だとすれば、タヌキさんみたいなチェブラーシカもロシアでは衝撃的違和感はないのかもしれませんね。少なくとも、お話よりも先に映画のキャラクターイメージが定着している日本でよりは。

 さて、1年半ほどたってしまいましたが、先日、やっとそのドラマの原作小説「ビブリア古書堂の事件手帖」(アスキー・メディアワークス)の該当章「タヌキとわにが出てくる、絵本みたいなの」を読みました。
 
 ある女性が小さい頃に読んだ不思議な生き物が登場する本を探す物語で、主人公の古書店の店主が断片的な情報から推理を働かせ、やがて一冊の本、そう、『チェブラーシュカと仲間たち』を探しだします。また、その本の内容と絡めて女性の長年の家族の確執と和解も描かれ、チェブラーシカのキャラクターイメージが今なぜこうのか、などについても触れています。


そうですね。こういう原作がドラマ化されたとすれば…、
確かに本を探したくなりますね。

 
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