露語版「さんびきのくま」 |
今回は食べ物の話。突然ですが、皆さんはあの昔話「さんびきのくま」で森で迷った女の子がくまの家で勝手に食べた食べ物は何だと思っていらっしゃいますか?
まず、「カーシャ」とは何?について。蕎麦の実が一般的なようですが、穀類を柔らかくミルク、バターとともにどろどろに煮込んだもの、およびミルクなしで塩味のものなど、作り方、味付け、濃度などはかなり幅広い食べ物。現在は、簡単なインスタントのものが出回っているようです。どろっとしているけれど、でも、スープとは違う料理です。
ってことで、前述の雑誌のカーシャ記述も手がかりとして、トルストイ絵本日本版で「スープ」になっているのは、もともとロシア語では「カーシャ」だったのだけど、日本に馴染みのない食べ物だったので、翻訳するときに日本の子どもにもわかりやすく「スープ」としたのでは、という推理をたててみました。しかし、トルストイ作の同じ画家のロシア語版「さんびきのくま」を取り寄せて調べてみると、問題の食べ物の表記はПОХЛЁБКА=「スープ」でした。あらあら。
2015年1月30日号 |
「カーシャ」?「スープ」?そして、もうひとつ、日本では「おかゆ」という答えもわりとポピュラーなのかな、と思います。これは「さんびきのくま」はもともとイギリスの昔話で「イギリスとアイルランドの昔話」(福音館文庫)方面を読まれた方の答えは「おかゆ」となるかと思います。
このイギリス版「さんびきのくま」、実はルーツをたどるともともとは昔話ですが、文章化された際、主人公は最初はおばあさん!で、それが後に変化して、金髪の少女、その名もゴールディロックスとなり、現在では「ゴールディロックスとさんびきのくま」というタイトルも親しまれているようです。そこで、このタイトルのアメリカ版英語絵本を2冊図書館から借りて調べてみました。注目の食べ物の表記はPORRIDGE。オートミールをどろどろに煮て粥状にしたもの。日本語訳ではこれが「おかゆ」という表現になるわけです。
日本では概ねこの「おかゆ」と「スープ」が一般的なのではないでしょうか。面白い例があります。2007年三鷹の森ジブリ美術館で開催された「さんびきのくま」展、そのパンフレットですが、ジブリの展示会自体ははヴァスネツオフ版をもとにしているので、展示物食べ物は「スープ」設定ですが、パンフレットの「おはなしのいわれ」という文章の中では「おかゆ」という言葉があたりまえのようにさらっと出てきています。まさかのダブルスタンダード現象です。
ジブリ美術館企画展示パンフ2007年 |
その一翼を担う「スープ」が登場するヴァスネツォフ版ロシアの「さんびきのくま」はこのジブリパンフレットにもありますが、もともとはイギリスの昔話であったお話を、トルストイがロシアの子どもたちのために書きなおしたもの。その途上で、PORRIDGEという言葉を、ロシアの子ども向けにПОХЛЁБКА「スープ」という言葉で表現したと考えることができるかと思います。「スープ」とはいってもПОХЛЁБКАは辞書を見ると小麦粉やジャガイモのスープを指すとあるので、どろどろっと感があるようですし、PORRIDGEとイメージは近いですね。
②に続く
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