2016年11月9日水曜日

薮内正幸さんとラチョフ

この夏、八ヶ岳にある薮内正幸美術館に行った。その高原の静かな環境に佇む原画美術館は木造りで、一人で訪れた私を優しく迎えてくれた。館内では「親子の姿」展が開催されていた。「どうぶつのおやこ」(福音館書店)出版50年を記念した企画だ。きれいに印刷された絵本の絵はひらぺったいけれど原画は画家の描くプロセスの「層」をつぶさに見ることができる。薮内さんは動物の毛一本一本を描ききる画家だ。その精緻な時間の積み重ねをゆっくりじっくり見ることができた。

今、やはり手元にある古い動物の親子を描いた絵本「どうぶつのおかあさん」を見ている。
原画展にもこの中の作品が展示されていた。この絵本はあらためてとてもいい絵本だと思う。お母さん、というものは何なのか、という問いがあるとしたら、この絵本を差し出したらいいかもしれない。子どもはきっとこの絵本中のの子どもの動物に自分を置き換え、咥えられたりすることにびっくりしながらも、親子の絆というものを感じとるだろう。これからお母さんになる人に読んでもらうのもいいかもしれない。私自身はといえば、ふにゃふにゃの赤ん坊を何とか育てなきゃと頑張っていた頃を思い出して何だか胸の底が熱くなる。命を守らなきゃという本能的な思いを動物のお母さんたちと共感できるのだ。

美術館の帰り際、館長である薮内さんのご子息竜太さんと少しお話をさせていただいた。画家薮内正幸さんのことを「天才ではないけれど、天才的に動物が好きだった」と仰った。誰に教わることなく動物の絵を描き始め、小学校3年のころには学者さんと絵や質問のやりとりを始めていた少年時代。そしてその学者さんとの縁が、本格的な動物図鑑の描き手を探していた松居直さんとの縁に繋がったそうなのだ。高校卒業後に上京。福音館書店に入社。まずは上野の国立科学博物館に通いひたすら剥製の動物たちのデッサンを重ねる日々を送る。動物画の肝は骨格。骨の仕組みが分かっていないと正確に描けないのだ。確か宮崎駿さんが「なかなか馬の脚を描ける人はいない」と何かに書いてていたように思う。まずは骨の仕組みがわかってないと描けないのだ。骨格そして筋肉、血管…解剖学の領域だ。もちろん、わかっていても描けるかは別。薮内さんは、もともとの知識や表現力に加えて、博物館でさらに科学的な見地に基づいた知識、対象をしっかり見る観察眼を鍛え、それを表現するだけの画力の修練を重ね、動物画家としての礎を築き、その後も真摯に動物描写の道を歩んできたからこそ、後に挿絵などで「紙の上で、解剖学的にも正しく動物を自由に動かして表現することができる」領域に到達することができたのだ、とのお話をうかがった。お聞きしながら、竜太さんにとって正幸さんは本当に尊敬してやまない画家、そして父親なのだということが伝わってきた。そのことに私は静かに感動した。

ここで、また、実は私はロシアの動物画家ラチョフのことを思っていた。モスクワにある彼の住まいをたずねた時、やはり義理の息子さんが同じようなことを話してくれたのだ。地道なデッサンの修練があったからこそ、紙の上で正確な形状で動物を動かし、また服を着せることができた、ということだった。そんな話を竜太さんにその時したのかしなかったのか覚えていないのだけれど、竜太さんから薮内さんとラチョフの意外な作品を通しての接点を教えてもらった。

薮内さんの初めての動物画絵本「くちばし」(福音館書店)の制作は、ロシアのラチョフ画版「くちばし」を見たことによるのだそうだ。ロシアの動物文学者、ビアンキ文のこの様々な鳥たちが出てくるお話を初めての動物画絵本制作に選んだ薮内さん。なるほど、納得の選択だと勝手に思ってしまう。くちばし自慢をする鳥たちが次々登場する図鑑絵本のような内容なので、子どもたちはきっといつのまにか鳥の種類を覚え、自然の中に生きる生き物たち個性を驚きをもって知るはずだ。

こどものとも版
昨今は、どんな動物でも珍獣でも何でも、画像や動画でその細部にいたるまで簡単に見ることができる。それはそれで素晴らしいことだ。一方、私は正確に対象を写し取り細かく筆で描いた博物図のような絵を見ることが好きだ。その魅力のひとつに正確に描いてはいるものの、その画家の個性が滲み出てしまうところ、というのがある。薮内さんには薮内さんの個性がある。ひとことで言えば、それは端正と言うことなのかもしれない。まずとにかく輪郭が美しいと思う。しかし端正だけれど、決して冷たいというのではなく、描かれているのは確かに生きている命の存在だ。眼差しの光の点、柔らかな光をまとった毛並みなどから私たちは温もりを受け取る。静かな絵のようでいて、実は私たちに訴える情感のようなものが溢れている。それからどんな動物たちも尊厳をもって描かれていると思う。天才的に動物が好きだったという、その「好き」の言葉は相手を尊重し、大切にする心なのだろうと思う。全ての作品を知るわけではないけれど、そんなふうに思っている。
子どものとも復刻版

そういえば、私はラチョフの描いた「くちばし」の絵をどこかで確かに見た記憶がある。あるのだ。でも、残念だが、それが、いつだったのか、どこだったのか今は思い出せない。鳥たちが並んでいるイメージだけが頭の片隅に保存されているのだけど。

もちろん、猛烈に見たいと思っている。
人生の宿題だ。



薮内正幸美術館;https://yabuuchi-art.jp/index.html
「ロシア絵本的日常」過去のタイトルリスト:http://lucas705karandashi.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html






2016年10月18日火曜日

順次更新・ロシア絵本的日常タイトルリスト

 ※PCの場合:ご覧になりたいタイトルの作成年月日を目安に
 右のブログアーカイブからお探しください。
 お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

「薮内正幸さんとラチョフ」2016/11/09
「さんびきのくま」のおいしい話  2016/07/03 
「さんびきのくま」のおいしい話  2016/07/03
マトリョーシカをめぐって 2016/06/20 
絵本出版2冊目。の「あとがき」 ロシアの絵本「カ ランダーシ」 0 20 2016/03/11 
カランダーシのロシア旅「モスクワ郊外・ダーチャできのこがり」 2015/10/11
カランダーシのロシア旅(ロシア国立子ども図書館を訪ねて) 2015/10/02
カランダーシのロシア旅(メトロでモスクワ動物園)  2015/09/28 
カランダーシのロシア旅(ラチョフ氏宅を訪ねて)2015/09/23
カランダーシのロシア旅(旅の始まり) 2015/09/19 
ロジャンコフスキーさん!  2015/04/11
チェブラーシカ事件簿  2014/09/23
ボンジュール!フランスのビリービン  2014/08/22
ビリービン再訪(印刷について) 2014/07/24 
ロシア絵本画家と「バレエ・リュス展」  2014/06/19 
ビリービン再訪(絵本誕生まで) 2014/06/17 
動物に服を着せることラチョフの挑戦 2014/01/19 
動物挿絵画家ラチョフの誕生  2013/09/16
ラチョフ画絵本『うさぎのいえ』発行まであと少し! 2013/05/10 
子どもたちへ-マヤコフスキーの思い  2012/09/26 
映画と絵本。コナシェーヴィチ  2012/08/15 
レーベジェフとはりねずみの背中  2012/07/13 
宮崎駿アニメとビリービンのつながり 2012/06/13 
すごいぞ!レーベジェフ! 大人の絵本の楽しみ 2012/06/01
 革命・ロスタの窓・レーベジェフ 2012/05/24 
ジャポニスムとビリービン  2012/05/14 
前提はビリービン  2012/05/01 
ロシア絵本とユーゲントシュテイル  2012/04/19 
ロシア絵本の黄金時代以前  2012/04/17
 ロシア絵本の黄金時代   2012/04/16 
『芸術新潮』04年7月号 2012/4/13

2016年7月3日日曜日

「さんびきのくま」のおいしい話①

露語版「さんびきのくま」
今回は食べ物の話。突然ですが、皆さんはあの昔話「さんびきのくま」で森で迷った女の子がくまの家で勝手に食べた食べ物は何だと思っていらっしゃいますか?


このお話ですが、トルストイの文、ヴァスネツオフの絵の絵本を思い浮かべる方も多いのでは、と思います。その場合は答えはスープ。となるのですが、昨年「TRNSIT」という雑誌を読んでいましたら、ロシアの絵本のコーナーで、同じくトルストイ作の「さんびきのくま」の文章の一部が掲載されていて「カーシャ」を食べたという記述があったのです。

まず、「カーシャ」とは何?について。蕎麦の実が一般的なようですが、穀類を柔らかくミルク、バターとともにどろどろに煮込んだもの、およびミルクなしで塩味のものなど、作り方、味付け、濃度などはかなり幅広い食べ物。現在は、簡単なインスタントのものが出回っているようです。どろっとしているけれど、でも、スープとは違う料理です。

ってことで、前述の雑誌のカーシャ記述も手がかりとして、トルストイ絵本日本版で「スープ」になっているのは、もともとロシア語では「カーシャ」だったのだけど、日本に馴染みのない食べ物だったので、翻訳するときに日本の子どもにもわかりやすく「スープ」としたのでは、という推理をたててみました。しかし、トルストイ作の同じ画家のロシア語版「さんびきのくま」を取り寄せて調べてみると、問題の食べ物の表記はПОХЛЁБКА「スープ」でした。あらあら。

2015年1月30日号
「カーシャ」?「スープ」?そして、もうひとつ、日本では「おかゆ」という答えもわりとポピュラーなのかな、と思います。これは「さんびきのくま」はもともとイギリスの昔話で「イギリスとアイルランドの昔話」(福音館文庫)方面を読まれた方の答えは「おかゆ」となるかと思います。

このイギリス版「さんびきのくま」、実はルーツをたどるともともとは昔話ですが、文章化された際、主人公は最初はおばあさん!で、それが後に変化して、金髪の少女、その名もゴールディロックスとなり、現在では「ゴールディロックスとさんびきのくま」というタイトルも親しまれているようです。そこで、このタイトルのアメリカ版英語絵本を2冊図書館から借りて調べてみました。注目の食べ物の表記はPORRIDGE。オートミールをどろどろに煮て粥状にしたもの。日本語訳ではこれが「おかゆ」という表現になるわけです。

日本では概ねこの「おかゆ」と「スープ」が一般的なのではないでしょうか。面白い例があります。2007年三鷹の森ジブリ美術館で開催された「さんびきのくま」展、そのパンフレットですが、ジブリの展示会自体ははヴァスネツオフ版をもとにしているので、展示物食べ物は「スープ」設定ですが、パンフレットの「おはなしのいわれ」という文章の中では「おかゆ」という言葉があたりまえのようにさらっと出てきています。まさかのダブルスタンダード現象です。

ジブリ美術館企画展示パンフ2007年
その一翼を担う「スープ」が登場するヴァスネツォフ版ロシアの「さんびきのくま」はこのジブリパンフレットにもありますが、もともとはイギリスの昔話であったお話を、トルストイがロシアの子どもたちのために書きなおしたもの。その途上で、PORRIDGEという言葉を、ロシアの子ども向けにПОХЛЁБКА「スープ」という言葉で表現したと考えることができるかと思います。「スープ」とはいってもПОХЛЁБКАは辞書を見ると小麦粉やジャガイモのスープを指すとあるので、どろどろっと感があるようですし、PORRIDGEとイメージは近いですね。

②に続く






「さんびきのくま」のおいしい話②


①の続き 
では、最初にもどりますが、「カーシャ」はどうなの?ということになります。トルストイについては、「さんびきのくま」を何度か書いており、その際に「スープ」と「カーシャ」(もっとあるかもしれないが)の書き分けがあったということなるのでは、と推理したいと思います。

ロジャンコフスキー版
実際、さきほどのパンフレットを読むと、トルストイは、ロシアの子どもたちのためにいろいろなお話を10回以上改作を重ねて作ったと書いてあります。このお話も改作を重ねるその途中で、「スープ」がやはりドロドロした穀物系PORRIDGEとイメージが重なる「カーシャ」になり、(または「カーシャ」が「スープ」になり)と考えられるのではと思うのです。カーシャだけに目がくらんでおろそかになっていましたが、雑誌TRNZITのその他の文章もヴァスネツオフ版とは随分異なります。どちらが先に書かれた話なのか、そもそも、「スープ」「カーシャ」のそれぞれの選択理由も気になります。

よく知られたシンプルなお話ですが、伝承物語ならではのお話の内容の変化があり、たったひとつ登場する食べ物も、国境を越えた時に多分わかりやすさや親しみやすさを考慮して自国にある料理名に変わり、作者の書き直しによっても変わり、ということなのではと思います。

で、現在ロシア人はどう思っているかなんですが、ほぼカーシャが優勢ではないかと思っています。私のロシア語の教材のお話でもカーシャです。実はロシアに行った際、何人かの人に聞いてみたのです。確か一人を除いてカーシャという答えが返ってきました。印象的だったのははっきりとスープと答えた小学生の女の子でした。

これはスープ
この女の子は双子なんですが、もう一人の女の子はカーシャと答えているのです。同じように育って多分同じ本を読んでいるはずなのに。お母さんも驚いて首をかしげていましたが、その女の子は絶対スープと言い張りました。彼女がどこかでスープ版「さんびきのくま」を一人で読んだのでしょうか。ちょっと面白い話だなと思っています。

PORRIDGEとカーシャについては、まあ穀類を煮るということから(スープよりも)同じようなものと言えるのかもしれません。というのも、ロシアから亡命した画家ロジャンコフスキーがアメリカで描いた「さんびきのくま」が最近ロシアで復刻出版されたので取り寄せて見てみたら、こちらは「カーシャ」表記でした。特に作者は記されていないものの、アメリカ版を露訳した絵本です。とするとカーシャの原語は何だったのでしょう。PORRIDGEという言葉が使われていたと素人なりに考えると、ロシア語版で堂々КАШАカーシャとなっているのは、ほほ同じ食べ物としての判断があったからだと推測されるからです。

カーシャを作ってみた
どうでもよいような、でも、同じ話でも同じ作家でも食べ物の表記が異なったり、国を越える時に異なってくる…このことから読者も人によってお話の食べ物のイメージがそれぞれ違うっていうのはちょっと面白いなと思ったわけです。というのも、原語をたどれば、概ねそんなにイメージの相違はないように思ったりもしますが、特に日本語にした時の「スープ」や「おかゆ」という表記はそれはそれで結構イメージがぐっと広がるというか、ゆえにもとの食べ物のイメージから離れてしまっているとも考えられますし。

先日行ったあるお人形の展示会ではこの食べ物は「ボルシチ」!!設定でした。もう、何でもありかもしれません。統一イメージとしては、どろっとした温かい食べ物だったということでしょうか。迷子の子がちょっと食べてみたくなるような。きっとそれは、優しくてほっとする味だったに違いないでしょう。熊のお母さんが家族のために心をこめて作ったのですから。


前回「ロジャンコフスキーさん」で書いていたことの答えを記します。
「さんびきのくま」に白樺の木はやはり登場していました!




参考・参照文献
TRNSIT27号(講談社)
「さんびきのくま」(福音館書店)
ТРИ МЕДВЕДЯ9785903979776
GOLDILOCKS AND THE THREE BEARS0399221212
GOLDILOCKS AND THE THREE BEARS0200728563
「三鷹の森ジブリ美術館企画展示 さんびきのくま」
「こどもとしょかん」139
「絵本世界の食事18 ロシアのごはん」(農文協)


2016年6月20日月曜日

マトリョーシカをめぐって

 
「マトリョーシカとロシアの玩具展」風景
昨年ロシアに行った際、ヴェルニサーシという民芸品の大きな市場で素朴な表情ときれいな色合いが気に入って小さなマトリョーシカ人形を買いました。中に4体のマトリョーシカが入っていて、並べて飾っていると何だか楽しい気分になりますしとても気に入っています。

そう、こんなふうにロシアに行けばマトリョーシカ!と思っている方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。ロシアのおみやげの代表選手ですね。日本では特に大人気で輸入量が世界一だと先日のマツコの知らない世界でも言っていました。

最初期のマトリョーシカ
そんなマトリョーシカ。その誕生は1890年代、国をあげての伝統工芸復興の気運高まる中、鉄道事業を始め文化事業、伝統工芸、玩具制作など手掛けていたアナトリー・マモントフ夫妻がモスクワに開いた「子どもの教育」という店の工房「子どもの教育」で生まれました。旋盤工はズビョーズドチキン、画家はマリューチンです。画像は同じ作家の作品です。(スペースシャワーブックス刊「ロシアのマトリョーシカ」より)

マトリョーシカを作るにあたっては日本の箱根の入れ子細工人形を参考にしたという説が有力とされています。マトリョーシカはその後1900年のパリ万博で注目され一躍世界で愛されるロシアの民芸人形ナンバーワンの存在となってゆきます。

「マトりリョーシカちゃん」福音館書店刊
箱根の入れ子人形が遠いロシアの地のマトリョーシカ誕生に影響を与えたとするならば、絵本の世界でもこのマトリョーシカにまつわる国を越えた関わり合いがあります。加古里子さんの「マトリョーシカちゃん」(福音館書店)という絵本があります。2013年「母の友」10月号(福音館書店)によると、この絵本出版は、加古氏が集めていたソ連時代のロシアの絵雑誌の中の1冊との出合いがきっかけだということです。

加古氏はこの雑誌の中のマトリョーシカの絵話に感心して、最初は機関誌に掲載し、後に日本語版の絵本として「マトリョーシカちゃん」を出版したのです。内容は、マトリョーシカちゃんが4人の名前でお客さんを招待しますが、次々やってきたお客さんはマトリョーシカちゃんしかいないのでおこりだし…。いうマトリョーシカの特長を盛り込んだ可愛らしいお話です。

そして、このロシアのマトリョーシカの絵話と加古氏の出合いの物語はこれで終わりではありませんでした。当時、どうにかして日本の民族性を表現した絵本が出せないかという気持ちを持っていた加古氏は、「マトリョーシカちゃん」を見て、「郷土玩具は、我々の先祖のセンスと思いが表れたものとしていいな、これはいただこう…」(前述「母の友」より)とひらめき、日本の郷土玩具の絵本を作ろう!と思いいたったというのです。それでできたのが、ごぞんじ「だるまちゃん」絵本だったんです。

その誕生に日本の郷土玩具がヒントを与えたとされるマトリョーシカ。それが絵話となり雑誌に掲載され、はるばる日本へ来る、それを見た日本の絵本作家がインスピレーションを得て日本の郷土玩具だるまの絵本を作っているんですね。(そして加古氏の「だるまちゃん」シリーズは世代を超えて愛され続けている人気絵本であることは周知の事実)
1920-30年幻のロシア絵本「おもちゃ」より

加古氏も言っていますが、だるまのルーツをたどれば印度にいきつくでしょう。でも「真っ赤な色と手足をなくしたあの形は日本人の感性が作り上げたもの」であり、同じくマトリョーシカも日本の七福神人形がベースにあったとしてもロシアの伝統と技術と民族意識、美意識などが結集され、新しく創造されたものです。(ここまでくると、七福神人形の誕生の背景も気になりますが、きりがありませんね)

文化というものが、海を越え、国を越え、時代を越え、影響し合い、刺激をし合って、そして新しい創造の展開を見せていくさまは、あたかもマトリョーシカの入れ子がどんどん出てくるようなイメージ、と思うと楽しいかもしれません。

さて、実は、私は今回いろいろ調べる中で、箱根の七福神人形という自国の郷土玩具の姿、形を本のページ上の写真でですが、初めて見ました。これまで箱根に出かけた際出合っていたのかもしれませんが、関心がなかったせいか、残念ながら記憶にはなく…今まで知らなくてごめんさないという感じです。

めぐりめぐって、マトリョーシカに教えてもらった七福神人形。ぜひ本物が見たくなりました。



参考文献:「ロシアのマトリョーシカ РУССКАЯ  МАТОРЁШКА」
        スペースシャワーブックス刊
       「母の友」2013年10月号 福音館書店刊





2016年3月11日金曜日

絵本出版2冊目。の「あとがき」

 

 昨年の11月になりますが、カランダーシは2冊目の絵本「わいわいきのこのおいわいかい きのこ解説つき」を発行しました。で、あっという間に今年ももう3月。大変遅ればせながらではありますが、簡単な「あとがき」のようなものをまとめました。


 今回は国際アンデルセン賞受賞画家マーヴリナのきのこの絵本です。しかもきのこの種類の名前がそのまま出てきている絵本です。お話自体は素朴でわかりやすいものですが、きのこに関しては専門的な監修が必要だと思いましたし、さらにきのこにフォーカスして巻末に解説をつけたいと思いました。

 お世話になったのは、国立科学博物館の保坂健太郎博士です。世界中のきのこの調査、研究で活躍されているとてもアクティブな先生です。絵本出版にご理解をいただき、お忙しい中、お力添えいただけましたことは本当に幸いなことです。


 実は、先生に絵本をお見せして、当初思っていた以上にこの絵本が本格的きのこ絵本であることがわかりました。きのこそのものはもちろん、服装、持ち物…などなどにもきのこの特性が反映されていたのです。先生がミステリーの謎解きのように次々と絵を見ながらお話ししてくださるのをお聞きしながら、正直驚き、そしてすっかり奥深いきのこの世界に魅了されてしまいました。

 マーヴリナの描くきのこたちは、それぞれ擬人化されとても個性的です。そして、その個性の表現がきのこそのものの特性を見事なまでに反映しているのです。マーヴリナ自身のきのこの知識やきのこに対するイメージもきっと取り入れられているのでしょう。

 博士には、巻末の解説もお願いいたしましたが、普通の図鑑の解説文のような内容ではなく、解説エッセイのようなものがいいのでは、というご提案をいただきました。こうして読み応えたっぷりの、専門的なのにわかりやすい「きのこはかせのかいせつ」が生まれることになったのです。

 この「きのこはかせのかいせつ」は面白いと好評です。小さいお子さんは大人に「かいせつ」を読んでもらって、さらに一緒に本文の絵を見ながら楽しんでてくれれば嬉しいと思います。保坂先生のお力を借りて、きのこという専門分野をわかりやすい形にして皆様に届けることができたのはよかったと思っています。

 さて、ロシアはきのこの国。きのこ狩りも日本にくらべると一般的なことで、実際に子どものころから郊外や森に出かけてきのこをとり食すことは珍しいことではないようです。この絵本はそういう国の絵本です。この絵本の原書が作られた当時(1950年代)はもっときのこ狩りがさかんだったと想像できます。多分、この絵本はそんな時代に、楽しいきのこのお話絵本として作られた、とも思いますが、小さい子どもがきのこの種類を覚えることにも用いられたのではと思います。

 この絵本、お話の中では、毒きのこに対して情け容赦がありません。「かいせつ」にあるように宗教的な背景でこのことを考えることは重要です。プラス、やはりこれはきのこ狩りが身近な子どもたちへの、毒きのこは食べられるきのこと一緒に混ぜてはいけない、という現実的、実践的な「ガチな」教えなのでしょう。

 でも、まあ、そんなこんなはそれとして、とにかく、とにかく、まずはこの巨匠マーヴリナの描くザ・ロシアの元気なきのこたちを、ひとつひとつよーく見ていただければと思います。「なんて表情豊かなきのこたちなんだ」ときっと驚くことでしょう。そして、「かいせつ」を読んでいただいて、さらにきのこたちと仲良くなっていただけたらと思います。

 制作的には1作目とはまた違うチャレンジでしたし、もろもろ頭抱えることもありましたが、絵本の中のにぎやかなきのこたちに励まされながら何とか新しい翻訳絵本を世に出すことができました。本当にありがたいことです。

 子どもから大人まで誰でも楽しめる絵本です!
 まだご覧になってない方は是非お求めくださいますようお願い申し上げます!