2012年5月1日火曜日

前提はビリービン

「プーシキン民話集/ブィリーナ(英雄叙事詩)」より
このブログの道案内『芸術新潮2004年7月号』は東京子ども図書館から借りたものだったので返却し、ネットで探して古書店で入手しました。便利な世の中になったものです。

さて、この『芸術新潮』では「ロシア絵本の黄金時代」を語る前提として、まずビリービンという「芸術世界派」から出てきた偉大なアーティストについて紹介しています。いえいえ、私の知る限りのどんな黄金時代の資料でもこの作家についての記述がないことはありません。まずはビリービンありき。なのです。

ビリービン。彼はロシアの絵本という形を創作した作家の元祖といってもいい人物です。(ロシアではそれ以前は「ルボーク」という民衆版画が物語絵として親しまれていたようです)「芸術世界派」は挿し絵を含めた総合芸術としての絵本という考え方を初めて打ち出したのです。

そのプロフィールですが、『ソビエトの絵本1920-1930』(リブロ)のヴェレナ・ラシュマン氏の「あったのか-なかったのか?」の中の詳しい記述によりますと、ロシア・リアリズムを目指していたビリービンは、ドイツに留学中に西欧の青年派画法を知り影響を受けたのですが、「彼は自らの作品にロシア特有の特徴をとどめるように努めた」ともあります。これはすなわちロシア「世界芸術派」の特徴でもあったようです。

ここで緻密で美しく神秘的なビリービン絵本の特徴を、まとめてみます。
1)西欧、ドイツのアール・ヌーヴォーおよびユーゲントシュテイルの影響
2)ロシア民話に題材をとることにより、風土や神秘性の表現
3)懐古趣味(16世紀に大変ひかれていた)
4)装飾美(美しい縁飾りなど)
5)ルボークという民衆版画の影響
6)ジャポニスムの影響
7)高度な印刷技術(美術本のような仕上がり)


しかし、しかし。
ロシア絵本の「黄金時代」すなわち1920~1930年代に焦点をあわせると、ビリービンはいつでもあたかも黄金時代の「前提としての装置」扱いになってしまうのがなんとなく残念なような。また、この6月から三鷹の森ジブリ美術館で、新企画展示『挿絵が僕らにくれたもの』展というものが始まり、この中でビリービンが取り上げられるようですが、現代のアニメーション作りにつながる存在として展示されるそう。ここではアニメーションの前提としてのビリービンですね。(楽しみです!)

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「プーシキン民話集/
ブィリーナ(英雄叙事詩)」5040円
ロシア絵本「カランダーシ」


「入り江のほとり」3150円

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