2015年4月11日土曜日

ロジャンコフスキーさん!


 
※仏時代カストール文庫
ひとりの絵本画家のいくつかの作品をみて、絵の変化に気づいたり、独特のこだわりなどを見つけたりするのは興味深いことです。今回注目したのは、あの「野うさぎのフルー」や「くまのブウル」で有名なフィオドール・ロジャンコフスキー。今度、カランダーシで、彼の描く「さんびきのくま」を入荷することもあり、以前から気になっている画家でもあったので、ちょっと調べてみました。

ロジャンコフスキーはロシア出身です。でも、青年期には混乱のロシアを出て、ヨーロッパ、主にパリで、子どもの本の絵を描きたいという夢を実現させ成功をおさめるんですね。でも、第二次世界大戦開戦にともない、南仏へ逃れ、スペイン、ポルトガルを経て、最終的に小さな貨物船で海を越え、ついには遠いアメリカへと渡ることを余儀なくされます。そう。それはまるで、野原で銃声を聞き、逃げる野うさぎのフルーの姿と重なりますね。

※仏時代カストール文庫
けれども、ロシアにいる頃のロジャンコフスキー(以下、親しみをこめて?ロジャンと言わせてもらいます)は、第一次大戦時と革命時には、兵士として敵と戦う青年だったんですね。つまりは銃を持つ立場ですね。彼が国を出たのは、銃よりも絵筆を持つ人生を望んだと考えることはできるでしょう。混乱が続くロシアから逃れ、若い頃から認められていた絵の才能を芸術の都パリで発揮させる道を選んだロジャン。最初の召集では負傷したそうですから、そのことも人生の方向性に影響しているかもしれませんね。

パリでのロジャンコフスキーの活躍といえば、なんといっても、ポール・フォシュによって創刊されたカストール文庫への参加でしょう!前述のフルーやブウル、そして「りすのパナシ」のお話を初め、フォシュ夫人のリダとのコンビで他にも「かものプルッフ」など、自然と動物の様子を子どもたちに伝える絵本や、「ミシカ」などのお話絵本など、今も子どもたちに愛され続けている優れた絵本を残していますね。

※渡米後の作品
そして、命からがらたどりついたというアメリカ。すでに絵本画家として有名だったロジャンコフスキーは大歓迎されたようです。さあ、そこでアメリカでの作品を見てみると…「THE TRUE STORY OF SMOKY THE BEAR」これは55年の作品ですが、一連のカストール文庫の絵と較べると「変化」が見られますね。テーマはやはり自然と生き物にある作品ですが、特に動物の描き方がちょっと変わったような。パリ時代のカストール文庫の本物の動物ものにおける素朴で飾らない自然のままの動物表現がベースにありますが、熊の目は少し「大きめ」で今よく使われる表現だと、「盛った?」印象かな。キャラクターとしての表情がついていますし、お話の流れではありますが、洋服を着せた「擬人化」も取り入れています。デニムをはきこなして、アメリカナイズされた熊さん!といった感じですね。

※目がパッチリ・着衣・擬人化
フランスでの活躍を評価していた方面からは、渡米後しばらくのこの「変化」をよしとしない意見も出ているようですね。でも、、これが、異国の地で絵筆で仕事をしていくというひとつの現実を示しているように思ったりもします。そして、また、ロジャン自身は、この変化を作家として前向きに「挑戦」として取り組んでいったのではと思うのです。

※コルデット賞
その証拠に、これは、同じく1955年作ですが、「かえるだんなのけっこんしき」で、見事コールデット賞を受賞しています!この絵本の中では、かえるだんなを始め様々な生き物たちが、ロジャンの新しい創造物として命ふきこまれ表情豊かに自在に軽妙に動き回っています。同時代のガース・ウイリアムのような鉛筆のタッチも取り入れていますね。そう、これらは、ロジャンの代名詞ともいえるしっかりとした動物描写の力あってこその表現。さきほどの「変化」を見事「進化」させたともいえるのではと思います。

資料によると、ロジャンの絵本挿絵の原点は、もともとの絵の才能に、高校時代に培われた博物学の素養が加味された自然への興味と愛にあるようです。幼いころ夢中になった動物園でのスケッチ、父親の蔵書のドレ!の作品に魅せられたというエピソードなども、ロジャンの絵の大切な要素でしょう。そんなロジャンですから、世界どこに行っても、その地の自然、生き物に心寄せたに違いないでしょうし、そういう興味が、異国の地を知る助けにもなったのではとも思います。

パリでも、アメリカも成功をおさめたロジャン。もし、ロシアにそのままいたら、うーん、テーマは同じでも、多分違う表現の絵を描いていたんではないかな。そう、独断を許してもらえるなら、「かえるだんなのけっこんしき」のような絵は生まれていなかったように思うのです。

ロシアのチョコの包み紙
※仏時代:熊の親子、白樺
でも、その国や時代のニーズに合わせたり、進化をとげたり、その国の自然描写を取り入れたとしても、ロジャンはやはり、ロシアの画家という印象を私は持っています。100冊以上の作品のうちわずか11冊くらいの絵本を見て何か語るのもおこがましいのですが、全くの極私的根拠というものをあげるとすれば、(変わった見方(こじつけ?)であることも重々承知していますが、ほとんどの絵本に「白樺」が登場するということをあげたいと思います。

※米時代:ナナカマド?とこぐまたち
※ロシア民家?
ヨーロッパだって、アメリカだって、白樺は存在します(日本にも)。ですから、どの絵本にも白樺は登場してもおかしくはありません。うーん、いやいや、でも、と思うわけです、確か白樺という木は私たちが思う以上に、ロシアの人にとって大切な存在と聞いたぞ…そう、日本だと例えば桜のように。(このことはビリービンについてのブログでもふれていますが)忠実なスケッチ画を絵本に使用しているのか、そのへんのことはわからないですが、私はロジャンは意図的に祖国を象徴する白樺を登場させていた、と考えたりするのです。そして、ナナカマドとみられる赤い実のなる木の登場にも「ああロシア!」と思ったり。また、「かえるのだんなのけっこんしき」(この絵本は白樺は登場しない)と、「おおきなのはら」(登場します)では、ロシア民家を彷彿とさせるような挿絵が登場します。

で、ここからは、さらにちょっとおまけ的な話ですが、パリ、米国2冊のくまが主役の絵本の、こぐまたちが森で遊ぶページを見れば、ロシアの有名なチョコレートの包み紙となんだか雰囲気が似ているなあと思ったり。このチョコレートの会社は1850年創業で、熊の親子の図柄はロシアでは昔からおなじみだそう。(私のロシア語の先生が、調べて
くださいました)。いえることは、これらは、Theロシアの森のくまたちのイメージエッセンスが濃厚だということ。もちろん、ロジャンがロシア時代にこのチョコレートを食べていて…とこじつけ的想像は膨むのです。


※白樺、登場します
私なりのまとめになりますが、フィオドール・ロジャンコフスキー…活躍の場は祖国ロシアではありませんでしたが、行った先々の環境やニーズに合わせた表現に取り組む一方、その地の自然を愛し、その風景を絵本の中に取り入れつつも、心の中のロシア、そしてロシアの森を決して忘れなかった画家。という感じでしょうか。

今回は生涯にわたる詳しい資料を探せなくて、特に、アメリカでのロジャンのその後の仕事ぶりの詳しい記載があるものがなかった…。結果、実際のロシアとの関わりや思いなど、今後も知る機会をもてたら嬉しいですね。

 さてさて、そのロジャンコフスキーが描いたもうすぐ入荷予定の「さんびきのくま」はどんな絵本なのでしょう。多分アメリカで描かれたものだと思うのですが、祖国を離れて描く祖国で愛されてきたお話…一体どういう気持ちで取り組んだのでしょうか。

そこに、やはり白樺は登場するのでしょうか。
楽しみです。


追記:ロジャンコフスキーの絵本で白樺探しをするのは楽しいことでした。ちょっと変わった絵本の楽しみ方ではありますが…。植物学的に本当に白樺と分類できるのかは定かではないので、白樺に見える木を探すという表現が正しいですが。






※参考・参照文献
「絵本図書館-世界の絵本作家たち-」(ブック・グローブ社)
「12人の絵本作家たち」(すばる書房)
「ボンジュール!フランスの絵本たち」(イデッフ)
「かものプルッフ」(童話館出版)
「りん らん ろん」(童話屋)
「川はながれる」(岩波書店)
「くまのブウル」(童話屋)
「おおきなのはら」(光村教育図書)
「かえるだんなのけっこんしき」(光村教育図書)
「THE TRUE STORY OF SMOKY THE BEAR」(GOLDEN PRESS」/
「ミシュカ」(新教出版社)
「かわせみのマルタン」(童話館出版)
「りすのパナシ」(童話館出版)

「野うさぎのフルー」(童話館出版)